第10回・霧立越シンポジウム 西南戦役130年

「西郷さんの歩いた脊梁山地を探る」

⑤  4月22日 鞍岡金光寺


松井 こんにちは、どうぞお足をおらくにされてください。今日は、お若い方もいらっしゃるし、ご年配の方もいらっしゃいますが、私は昭和32年生まれで今年50歳でございます。西南戦争があったということは歴史で学んでおりますけれども、その詳細については私より皆さん方のほうがお詳しいのではないかと思います。
 この寺は、浄土真宗本願寺派の超耀山金光寺といいまして私で16代目になります。それで、私の父から私が聞いた話しですが、そういうことしか私からみなさんにお伝えできることはないのかなあと思っているところです。ま、お見えになられるということでいろいろ事前に調べてみました。
 皆さん、この本をご存知ですか。司馬遼太郎が書かれた「翔ぶがごとく」という本です。文芸春秋社が出している本ですけど、全部で7巻ですね。この鞍岡の地を薩軍が通られたのは田原坂の戦争で負けられてですね、一旦人吉にバックされて、撤退されたときにここを通過されたですね。「翔ぶがごとく」では終りの方の7巻目にですね。五ヶ瀬町のことが何箇所か出てくるんです。66ページと、高千穂のことが208ページ当たりに出てきています。お隣の鏡山というところの戦いも出てきておるみたいです。そこで金光寺と西南戦争ということでかいつまんで書いてみました。それによると(以下略)。
 西郷さんが来られたのは、明治10年4月22日に黒峰を越えてここに来られたのですけれども、その時が2,000人の大軍に護られてですね、この鞍岡の地に入ってきているようであります。その時に西郷隆盛さんはここの金光寺に一泊して、翌日本屋敷から胡摩山を越えてですね、椎葉村の仲塔に移られてそこでまた宿営をされているようであります。家には、西郷さんの率いられる軍と24日の日には桐野利秋さんの軍がもう一回泊まっていらっしゃるんですけれども、家は今はもう建て直しをして当時の面影があるところはほんのちょっとしかありません。造りも変わっていて、桐野利秋が4月24日に残兵をつれてここに泊まっているのですけれども、その時に、私も見てないのですけれども丸い行灯があったそうです。
 その行灯に字を書いてくれと頼まれて桐野利秋が中村半次郎と昔の名前を行灯に書かれたみたいなんですけれども、私から言うたら曾ばあさん、曾祖母がそれがすすけとるというて破って燃やしてしまったというふうに聞いております。私の父から聞いた話です。そういうことで残念ながら残っておりません。
 それから桐野敏明さんはですね、いわゆる負けて撤退をしていく行程のなかで泊まっているので心の中に負けていくことの悔しさ、焦燥感というものが心の中にあったのか家に泊まった部屋で刀を抜いて振り回して柱に傷がついたというふうに言われております。その刀傷を私もだいぶ探してみましたけどありません。私ができたときにはもう建物がいろいろと大幅に変わっていたので記憶にないですけど、昔の人にお聞きすると、本堂のすぐ横、その開いている庫裏のあるところが庭になっていますが、そこに縦に長い部屋があったらしいです。そこで刀を振り回したのじゃないかなあという気がします。その建物を壊していますのでその時に柱も多分処分しているのではないかなあと思います。これから見てもらう部屋は、柱は昔のままで残っているけど刀傷は見受けられないので推測ですが、どうもそういうことになっているのではないかと思います。
 私は以前は役場に勤めておりました。在職しているときにNHKの大河ドラマで西南戦争が取り上げられたことがあります。その時に町内の西南戦争に関係あるところをだいぶん調べてみました。皆さん方が見られて一番感動されるのは、三ケ所の室野というところに貝長さんというお家があるんです。そこに貝長拾太郎さんという方がいらっしゃったみたいです。この方は薩軍が逃げてきたときに人夫としていろいろ手伝いをさせられた方みたいなんですけれども、その方が日記を残していらっしゃるのですね。貝長日記です。これは今もあります。私も見ました。チャンスがあったら行かれるといいとおもうんですが。
 貝長という姓は五ヶ瀬町には二軒しかないです。そのうちの一軒ですからすぐ分ると思います。それを一回みられると五ヶ瀬町の中で西南戦争の資料として見られるとすればこの貝長日記というものが一番いいのかなあという気がします。後は古戦場ですね、いわゆる薩軍と官軍が戦ったというところがいろいろありますけれども、そこは、今はこうじゃったといわれても私達には「ああそうじゃろうか」というくらいにしか見れないような感じです。
 それでは、お手元に配りました資料、司馬遼太郎の「翔ぶがごとく」第7巻の66頁からですがね折角ですので読んでみます。―朗読略―。私の親父が家のことが載っとるからお前も死ぬまでに一回は読めというて渡されました。だから私はここだけ読みました。7巻もあるのではまらないとなかなか読めません。それから、多分ここに西郷さんが泊まったであろうという部屋をご案内しますのでご移動をお願いします。