禁・無断転載
第5回・霧立越シンポジウム

1997年5月17日(土)〜18日(日)
場所  五ヶ瀬町町民センター
霧立越の歴史と自然を考える会

自然と共に生きていくためのシナリオ・その3

森の見方学び方

講師 九州森林インストラクター協会会長 安楽行雄氏


森林インストラクターは森の案内人
 まず森林インストラクターについてご説明いたします。皆さんがインストラクターという言葉のイメージでは、水泳とかエアロビクスなどでイチニ、イチニとやってから「はい、やりなさい。イチニ、イチニ」というのがインストラクターだというふうに連想されると思います。ここで言いますところの森林インストラクターは、都会の人とか皆さんが初めて山に行った時に山のことをいろいろ楽しんでもらえるように案内できる人のことを指します。

たぶん、この会場の中でもお友達やお父さんお母さん達と、あるいは子供を連れて山に登られた方がいらっしゃるはずです。帰ってきたらきついばっかりだったと、この次はもう絶対山に行かない、と言うような方もいらっしゃるかもしれません。そういうんじゃなくて、山にいつの間にか登った、そして帰ってきたらまた行きたい、そういうような森の案内をするのが森林インストラクターでございます。その森林インストラクターという制度は平成3年度にできました。大げさなもので、そういうインストラクターするのを農林水産大臣が認定するという制度が今できているんです。

 その前に、その発祥となったのが、この宮崎県北部なんです。フォレストピア構想というのがありまして、五ヶ瀬町、高千穂町、日の影町、椎葉村、諸塚村の五つの町村をモデル圏域に指定しまして、昭和62年頃から毎年10人程度の方々を教育されまして、そして山案内をさせる、そういうことを実際やられたわけです。そういう宮崎県の制度を見まして、林野庁が主体となって作ったのが森林インストラクター制度でして平成3年度から試験を行っております。試験は、筆記試験と実地試験がありまして、それに合格したら森林インストラクターという称号をあげる、というような制度でございます。試験を受けて取るという制度ですので、ちょっとばかし勉強しなくちゃいかんということなんです。難しいのか難しくないのかというのは、森林をどれほど知っているかということでして、受験者がそういうのを知っていないで受けた場合は落ちる率が多いということになります。

 参考までに、平成8年度は713名受験いたしまして115名が合格しました。ですから10人受けて1.6人ぐらい通るという倍率になっております。これは難しいことなのか簡単なことなのか分かりませんけど、今、全国で545名、内九州では24名の方が合格しております。そういう方々が平成3年度から平成8年度まで誕生しています。このようにして誕生した森林インストラクターは、今日のこのような森のお話とか、あるいは植樹祭とか、それから各学校の森林教室とか、あるいは山に植物探索に行こうというような方々を案内しております。


九州森林インストラクター会
 今日は、第5回の霧立越シンポジウムですけれども、森の案内人というのを実際にやっておられるのがこのシンポジウムを主催された霧立越の歴史と自然を考える会の人たちです。 もうすでに1年中霧立越を歩いて案内をされていらっしゃるわけなんです。そういう人たちに負けないように頑張ろうという事で、実は九州にいる人達が協会を作ろうという事になりまして九州森林インストラクター会ができたわけなんです。正会員は農林水産大臣の試験に受かった人、これが24名おります。それから、それになりたい、あるいはとてもなれないけれども、ただ友達だけでもやってみたい、あるいは、その受験をしようと言う人達を準会員といたしまして、会員が97名でスタートしました。
会費はたったの2000円です。今郵便料金もえらく高くまりましたので、それでそういうこともありまして、賛助会員を9社お願いしましてご支援頂くことにしました。今、九州の森林インストラクター会は、平成7年4月にして121名と賛助会員9団体で構成しています。

手づくりの虎の巻
 それで最近どういう事をやっているかをお話しますと、実は、先週、春の研修会を五家荘の白鳥山で開催しました。主題としたのは山菜料理です。今、山菜ブームでもありますので山菜料理をして食べようというわけです。森を案内するのは自分だけれども、山菜料理の話をしても自分で食べた事がないと話にならないと言う事です。そういうことをキャンプしながら実施しました。

 そういうことをやっておりますけれども、実はこういう大きな所帯でございますので、みんながそれぞれレベルアップするには非常に苦労がいる訳なんです。そこで、その会員に呼びかけて虎の巻をつくりました。先程、遠藤先生もお話してくださいましたけれども、ああいう森林帯についてのお話や、あるいは山に木を植えて魚にどんな影響があるのかとか、みんな分かっているんです。分かっているけれども、それを系統的に考えてみよう、ということで最初に作ったのが緑の手引きという冊子です。

 山を歩いて行きながらみんながちょっと疲れたなと思った時、木の匂いなんかは記憶しているけれども、広葉樹と針葉樹はどっちが匂うか、という話とか、あるいは山が見えてくると森林帯の中でここは、温帯林だけれども、温帯林には、暖帯林と冷温帯林があるよ、と、そう言うような話をする虎の巻を作っております。植物図鑑は言葉も難しいし意味も訳も分からないわけです。それではいけないから、木を見てどんな特徴があるのか、あるいは森を見るとき、あるいは植物を見るとき、どこを見ればいいんだというようなことを、5行以内にまとめております。ウツギ類と言うのは、すいかずら科と、ゆきのした科があるんですけども、それをいっしょにまとめて書きまして、自分達が皆様を山に案内する時に活用し易い虎の巻を作り、会員のレベルアップを計ろうというような事で作っております。

 そういうことで森林インストラクターというのは、山に行って皆さんを楽しませるためにお話をするわけですが、本人があまり知らないけれども虎の巻を胸に忍ばせて歩いているのだと言う事を知ってもらいたいと思います。このようにしてそれなりにがんばってやっているところでございます。

山桜の見分け方
 それでは、実際森からどんな事を習って、そして皆さんにどんな話をしているのかと言う事をお話したいと思います。

まず、皆さん桜を知っていますか?。こういう質問をしますと、皆さんは馬鹿じゃないかと、桜だったら知っているよと、たぶんいわれると思います。それでは、この桜はどこで見分けますか。というと、それが桜よ、では知っているうちに入りません。なぜ桜かという事なのですが、どうでしょう皆さん、桜を説明できますか?。簡単なんです。それは、植物がちゃんと皆さんが覚えやすいように合図を出しております。といいますのも、ここに桜を持って来ております。これが桜だ、本当だろうかと思いますけれども、桜は必ずここに托葉がふたつ付いているのです。故に、これが桜です。

 霧立越にはミズメの木が多いですね。皆さんが山に行って、その時に桜だろうか、ミズメだろうかと見分けが出来る方法は、こうした観察です。皆さん方には、「貴方は馬鹿ばい、皮を剥けばすぐ匂いでわかったやろう」と言う人がたぶん何人もいらっしやると思います。知ってもらうには、1回ぐらいは木を傷つけて匂いを嗅いでもらう事も大切ですけれども、ここも削る、あそこも削る、で登山道路に10箇所も20箇所も削ったら自然破壊のなにものでもないんです。私たち自然をネイチャーと言うのは、自然で楽しむのですから。そういうことを1回聞いてあとはどこに印があるかと言う事で見わけて行きます。

ナラとカシワとナラガシワ
 クリはどうでしょうか。役場の方や関係者もいらっしゃいますが、馬鹿じゃないかクリはクリよといわれるかも知れません。クリとクヌギの葉を出されたときにその見分けがつくでしょうか?。これも、ちゃんと植物の葉っぱが、俺がクリ、俺がクヌギというふうにちゃんと合図を送っております。ここに持ってきておりますけれども、このギザギザがあるのを鋸歯といいますが、それは覚えなくてもよろしいです。ですがこの葉っぱのトゲトゲの付き方がこの葉っぱから、葉っぱの3つの部分を引っぱてきてトゲが出ているのがクリなんです。そしてクヌギというのはトゲが針のようにキュッと飛び出てるんです。この葉っぱを皆さんのところへ廻しますので嘘か本当かを見てください。私の名前が安楽だから適当なこといってないだろうかと思われるからですね。(笑い)

 それから植物の名前の付け方も面白いんです。皆さんはナラという木をご存じでしょうか?。ナラはカエデといっしょで樹種の種名としてはないんです。カエデなんかも学校記念樹としてカエデ何本と植えてありますけれども植物の名前としてはカエデは無いし、またナラもないんです。ナラは大体コナラのことをナラといいます。ここでちょっと見ていただきたいんですけれども、この二つの葉はどこが違っていると思いますか?。葉っぱの付いてる柄のところを見てください、柄の無いほうが柏なんです。そしてコナラというのが葉っぱの葉柄が長いんです。葉っぱの柄が長いのがコナラ、いわゆるナラなんです。そして柄のついてないのが柏なんです。そして、長くもない短くもないのはどうしよう。ナラガシワと昔はいい加減に名前を付けたと思うんですが、これはナラガシワということで名前が付けられております。そういうことをみますと、植物、樹木の見方というのは楽しくなると思います。

 皆さんがいつも見ているもので椿と山茶花を持ってきました。どちらが椿でどちらが山茶花だと思いますか?。山茶花は山茶花よ、そんなこと言ったって椿は椿よと、こういう話になると思いますけれども、実は葉っぱを照らして後ろから見て、葉脈が見えるのが椿なんです。そして、葉脈が見えないのが山茶花なんです。さらにルーペで見ますと、椿の裏には、古い葉っぱになるほど、茶色からだんだん黒くなりまして点々が付いております。そんな椿も知らんのかという話になりますけれども、ちゃんと植物というのはそういうことを特徴として教えてくれます。そういうことでちょっと見方を変えれば非常に面白いことを教えてくれるな、という事になる訳です。

イチョウは針葉樹
 これはご存じですか?。はい、イチョウですね。イチョウじゃないという方。いや、銀杏だといわれるかも知れませんけれども。イチョウというのは中国語で、鴨の足というのからきているんです。銀杏はそのまんま中国のイチョウの名前なんです。これについては食べておいしいと思う人と、拾ったらえらい臭いよ、そして手がまけたとか、腫れたとかといわれる方もおられると思います。そして、イチョウは針葉樹だということはお分かりですね。分からない方は分かってください(笑)。

 それじゃ、ここで一番頭の良さそうな人に一つの葉っぱの茎の長さを見てもらいます。5枚ありますから葉っぱに付いている柄の長さが同じものを探してください。どうですか?。同じものは無いですね。なぜでしょうか?。これは私も説明できません。なぜ同じ所から出ているのに、柄の長さが一枚一枚違うのかというのは、ホルモンが関係しているなどあるだろうと思いますが、私が説明できるのはこういうことです。

 私が手に持ったイチョウの葉を見てください。皆さんの方から見ていただくと、太陽に向かうイチョウというのはこんなふうに立っているわけです。そうしますと、もう感のいい人はお分かりだと思いますが、光合成、いわゆる炭酸同化作用をしてデンプンを作るときの日光を、都合よく採るために長さを違えている。そういう方法をとっている。そういうふうに理解できる。それじゃ日光を採るために、短くなったり長くなったりするにはどうするのかといわれても、私にはとても説明できませんので、そういう疑問をお持ちの方は、またご自分で調べてもらいたいと思います。そのようなことで、山を歩くときに、そういう特徴を探しながら歩くと非常におもしろいんです。

ドングリを知っていますか。
 森林インストラクターをするとき、夏の間は小学校や中学校は、あまり依頼が無いんです。その頃は葉っぱが付いておりますが、予算はないわけです。ところが秋から冬にかけての11〜3月になりますと、もうそろそろ予算を使わないといけない。今、えらくもめておりますけども、予算を消化しようと冬の山に森林インストラクターと行こう、森に遊びに行こう、ということになるようです。そこで森林インストラクターは、どんなことを話したらいいのかだろうか、ということになるわけです。これは冬の芽というのを見る。それもおもしろいんですが今日は果実、種子、木の実、それについて、お話をしたいと思います。

 ドングリはご存じですよね。もし知らないと言われると困るんですが。皆さんが思い浮かべているのはクヌギでしょうか?。アラカシでしょうか?。一般的にドングリコロコロと転んでくるのはクヌギのドングリです。ちょっと黒板が無いので書けませんがドングリを立てると、頭の先がとがっていてお尻の方に皿があります。それで頭がどっちかという論争があるんです。帽子をかぶっているから、こっちが頭じゃないか。いや、とがっているほうが頭だろう。ということになりますけど一応、細いほうが頭、そして帽子をかぶっている方がお尻ということで理解していただきたいと思います。

 それではドングリについて質問しますけれども、ドングリでヒゲの生えているのを見たことがある人いませんか?。見たことないですか。静かにしてください(笑)。それで、今言いましたのは言葉のあやでして、イチイガシの実のことです。イチイガシの実には3分の1以上に毛が生えております。ヒゲと言いましたが実は毛です。星状毛といいまして星の状態の毛と書きますが、そういうのが生えておる。それで、そうかドングリの中でイチガシは3分の1以上に毛が生えているのか、ということは覚えてもらって、他には毛が生えているのはないと思ったら間違いです。ミズナラもこの一番とがったイボのところにちょこっとは出てきます。それからマテバシイなんかもちょこっと出てきます。ですから、こんなにたくさん出てくるのは、イチガシだと思ってください。

 そしてこれを覚えたら、是非、その木を見ていただきたいと思うんです。なぜ木を見ていただくかというと、ヒゲのあるドングリは、あぁイチガシかと、あぁそうか分かったと、そこで分かってもらために、絶対分かってもらうために、このイチガシを見ます。そうするとカシ類の中で毛がいっぱい茶色のこの毛と同じ毛が生えているのは、イチガシだけなんです。そういうドングリを1つ覚えたらそれと一緒に、ドングリと葉っぱは同じ情報を人間に与えてくれているんだなと、いうことを覚えると楽しいと思います。
ドングリというのは、このようにして頭がとがっている。お尻のほうがちょっと出て帽子をかぶっています。それじゃ、お尻のへこんでいるものはあると思いますか?。お尻のへこんでいるドングリをご存じの方はいますか。普通私の世代以上だったら、吸いつきドングリということでたぶん知っていらっしゃると思います。みんながいるから、手を上げると聞かれるかもしれないから手は上げない、と思ってらっしゃるかもしれません。(笑い)

 お尻の方がへこんいるドングリをここに持ってきております。ここは見えますか?。お尻の方がへこんでおります。後ろにいる、一生懸命見ている人に、本当だよって言ってもらっていいですか。それで、今言ったようにドングリっていうのは、こういうふうになっていると、栗みたいだと言われるかも知れませんけど、栗もドングリの一種なんです。そういうところで見ていただきたいと思います。3分の1以上に、毛が生えているのはイチイガシで、葉っぱにも毛が生えている。そしてお尻が逆にへこんでいるのは、お尻がへこんでいるからシリブカガシなんです。シリブカガシといってもやはりそれだけではなかなか覚えにくいわけです。木もどんな木かわからない。そういうときはその葉っぱを見ます。葉っぱを見るとさっきのドングリと一緒で、葉っぱの裏がへこんでおります。それなら帰って見てみようと皆さんがもし、興味のある人が図鑑を見てみるとへこんでいるなんて事は書いてないです。「葉脈が突出している」と、わけの分からないことが書いてあります。そういうことでいろんな植物が、情報を、人間が理解するためのことを、いろいろ出しております。そういうところを観察することによりまして、いろんなことが分かるわけでございます。

 シイの実は皆さんご存じですね。今、皆さんが考えられたシイの実は、丸っこいやつと、楕円形の長いやつと、たぶん2つに分かれているでしょう。シイの実は、丸いのと俵状でちょっと大きいものと2種類があります。丸いのと楕円形の長いのとですね。それで男性諸君も女性を見るときにはつぶらな瞳の美人がいいな、と言うときのつぶらという字をどうやって書くか知っていますか?。つぶらっていうのは円と書きます。1円2円の円です。それをつぶらと読みます。熊本県の人吉では、姓もあります。円(つぶら)さん。そういうことで円な瞳というのは、丸い瞳のことをなんです。丸いやつは、つぶらGなんです。そして細長いのが、いたGなんです。そういうことで見分けていくわけなんです。

山芋の実はむかご?
 そんな話ばかりしていてちょっと疲れがきましたので、あと1つか2つ、皆さんの常識をテストしてみようと思います。これは知ってますよね。えらくちっちゃいのを持ってきましたけど、何だと思いますか?。そうです。山芋の花です。若い人達は知らないと思いますけど、世代が上の者は、これを鼻に付けて天狗だと、わーわーいって遊んでいたわけです。 それではお聞きしますけれども、山芋の種を知っている人?。今、むかご、という答えが出ましたが、むかごだと思う人が多いですね。皆さんもむかごだと思っていらしゃる。実は、これが山芋の種なんです。この中にちゃーんと種が入ってるんです。丸くて円になっております。ここに種を出しておりますけれども3つ出てきます。真ん中が厚くて皮が薄くなっております。膜でできております。そして風に飛ばされて、できるだけ広く子孫を飛ばすよということで、戦略を立てているわけなんです。

 もし見ていられない方いらしゃいましたらちょっと後ろの方に回してみて下さい。これが山芋の種です。私たちが、営林局で研修しまして、若い人達が現場に行きます。そして、5年も6年も経った人達に山芋の種を見ましたかというと、みんな、むかごとか、種は無いとか、茎で太るんだということをいいます。けれども、れっきとした種があり風に吹かれて飛んでおります。今の季節は、もう飛んだあとばっかりしか残ってないと思いますけれども、しっかり見ると1つか2つかは残っておりますのでそれを見ていただきたいと思います。

カエデの実のプロペラ
 それでは種についての最後の話にしたいと思います。楓の種は、プロペラ状になっていてどんどん飛んでいく。そんなふうに書いてあるのを読んだことがあると思うんですが、どうでしょうか?。楓の種というのは必ず2つつながっている。そしてそれがプロペラ状になって飛ぶ、ということが書いてあります。それでは、それを実験したいと思います。これが2つにつながっているプロペラ状の種です。これを落としてみます。ポトッと落ちるだけですね。。プロペラ状に、書いてあるようには飛ばない。回らない。これは片方に大きい実を付けておりますからしっかり見て下さい。2つの種が全く同じだという物はないわけなんです。それはなぜかといいますと、どちらか一方が先に落ちるんです。実の充実している方が。そして回りながら飛ぶんです。

 実験をしてみます。ほら、片方だと回りますね。これは、今人気があるメグスリの木の種です。大きくて見易いように準備しました。これもふたつつながったままだとさっきのようにポトッと落ちてしまいますけれども、どちらか一方だけだとどんどん回ります。だから私たちが本とかそういう物で知っているということが、なかなか山ではわからないというわけなんです。

 今お話しましたように、観察の仕方ということが大切です。植物というもの、あるいは樹木というものはどういうことをやっているか。そういうことを、改めて観察していただくと、 山や森っていうものが、非常に楽しくなってまいります。そういうようなことで、次の話に移らさせて頂きますけれども、山を歩くときのおもしろい話っていうのは、私も最初から自分で知っていたわけではないんです。楓の実も、いろいろ観察して、1つだけでひらひら落ちるのを見て、これはおかしいな?。というようなことで、本当だろうかと、実験したり、あるいは聞いたりしてこういう話をしているわけです。そういうことを森でやっていただきたいと思っております。

常緑樹と落葉樹と春植物
 それでは、植物の話ばかりじゃ今日のテーマに反しますので、次の話題に入っていきたいと思います。今日、遠藤先生の話で熱帯雨林と熱帯林とは違うんだ、という話がございました。そして皆さんの常識のなかでも、熱帯雨林がだんだん砂漠化しているというのは、たぶんどれもこれも一緒だったと思います。ところが今お話を聞いて、熱帯雨林はこうなのか、熱帯林の方はこうなるのか、ということはご理解なさったわけで、そういう常識がクルッと変わったと思います。今度は、そういう常識の話をしていきたいと思います。皆さんは常緑樹と落葉樹、これは知ってますよね。落葉樹とはどんな木ですか?。そう、葉っぱが落ちる木ですね。葉っぱが落ちます。

 落葉樹っていうのは今、新緑で芽が出てきて、これから硬くなりますから、今が一番きれいな時期です。そういうことで春に、標高の低い所では3月始めから芽を出しまして、そして11月始めごろ葉っぱを落とします。それに対して、常緑樹は葉っぱをいつも付けているんですね。みなさんの答えがもしそうでしたら、だいたい60点位です。点数としてはですね。なぜかといいますと、常緑樹には、杉山があります。松山があります。檜山があります。これはみんなだれも、あれは落葉樹だ、という人はいらしゃらないと思います。これはれっきとした常緑樹です。ところがそこに葉っぱが落ちてないか?というと、いっぱい落ちております。昔は杉の葉っぱは、落ちたやつを薪の焚きつけに使いましたし、あるいは松の葉をいっぱい拾ってきて、タバコの床とか苗の床を作るときに利用しました。そういう利用があったから、葉っぱが落ちないわけではないのです。

 皆さんのところでは楠はご存じでしょうか?。今年は楠の葉っぱが落ちるのが早かったか、芽が出るのが早かったかわかりませんが、普通は今頃でだいたい終了する。ところが今年は4月の15日前後から、どんどん葉っぱが散りだして1週間位で葉っぱが交代したんじゃないか。例年に比べますと10日位早い。今、楠を眺めてください。古い葉は1枚も付いていません。これは葉っぱが全部入れ替わっております。それから椿なんかも、そのように入れ替わっている。ゆずり葉ももちろん入れ替わるからゆずり葉といって正月の飾りにするんですけどね。年を譲っていくということです。

 そういうことで、どうも葉っぱの寿命で落葉樹と常緑樹というのは分けてある。といいますのは、葉っぱの寿命が1年未満で、幹や枝が全部見えてしまうのが落葉樹なんです。葉っぱは落ちるけれども葉っぱの寿命が1年以上あるのが常緑樹なんです。ですから葉っぱが落ちるのが落葉樹、葉っぱが落ちないのが常緑樹、あるいはいつも葉っぱが付いているのが常緑樹という答えは60点と言ったのがそこなんです。葉に寿命があって、そういうことになります。ですから、葉の寿命をちょっと調べてきました。杉でだいたい1年半〜2年なんです。楠とか椿とかそういうのは1年です。タブの木は2〜3年、そして、松などは2年ぐらい、檜は6年寿命があります。

 皆さんが、森の中に入って見ると、杉と松林はいっぱい葉っぱが落ちているけれども檜林では、足がはまるほど葉っぱが落ちていないことを経験されていると思います。そういうことを考えますと、その葉っぱの寿命によって、落葉して交代するのが6年と、2年で交代するのでは、その葉っぱの落ちる量も違ってくる。皆さんが学校に楠があれば毎朝掃除にたぶん困ったはずです。熊本市内は、いっぱい街路樹に楠を植えてあります。楠は熊本の県木でもありますし、市の市木でもあります。そういうことでいっぱい植えてありますから、朝は婦人会の人達が朝早く起きて一生懸命掃除されています。そういうことで、落葉樹、常緑樹というようなことを覚えていただきたいと思います。それで100点です。次に120点とる方法を教えます。

 落葉樹は夏に葉が付く。それでなくて、今度は逆に冬に葉っぱを付けて夏に葉っぱを落としているのがあります。これはここの白岩山岩峰にもあります。おにしばりというのがあります。これは、じんちょうげ科の中で皮が強くて鬼も縛ることができるということで、おにしばりという名前がついたんですけれども、植物が知恵を出しているわけです。これは落葉樹の山にしかありません。それは、秋に葉っぱが落ちてしまえば太陽の光が当たりますから、その間に葉っぱを伸ばして生活しようという知恵が働いている。それをおにしばりがしている。シダ植物にも、オネカズラというのがあります。これも落葉樹の太い幹に着生しておりまして、葉っぱが落ちた冬の間に葉が伸びて栄養を貯めている。そういう種があります。

 そういうのは、いわゆる上に葉っぱがある時には成長できないけれども上に葉っぱがないときに炭酸同化作用、光合成をやるという働きがある。それを進めて草本類になると、春植物というのがあります。皆さんお聞きになったと思いますけれども、カタクリとか福寿草というのは、これは常緑樹の山には絶対ないんです。落葉樹林の中にあります。落葉樹のブナ林ももちろんです。ブナとかそういう所に春植物は多いんですけど、福寿草は2月の半ば頃咲きます。そして今年は早かったんですが、カタクリは今年は、4月の10日前後でした。今年の25、26日頃に行ったら、もうたぶん全部種になっていたと思います。ということで、上に葉っぱがどんどん付いてくる前に、日の光に当たって、そして花を咲かして種を作って、上に葉っぱが出てきたら、もう地面に潜ってしまう。そういうのを春植物といいます。

 たぶん皆さんは、ご存じだと思いますけれども、カタクリだとか福寿草、あるいは、オオキツネノカミソリとか、その他にも今、山へ行きますとツクバネ草とかエンレイソウとかいろいろあります。また、もうなくなりましたけれども、ワキガイ草とかヤマエンゴサクとかあります。そしてそこに、バイケイ草とか、キレンゲショウマ、などが出てくるときにはもう、光が当たらないから、もうそのときに、実を作って地面の中に眠ってしまう。眠ってしまうという表現はいいかどうかわかりませんけど、地中に入ってしまう。そういう生活をするのが、春植物っていうことで、山をうまく利用しています。そういうことを学びますと植物というのも長い進化を遂げてきた中で、それぞれ自分の住み場所を作って、生きてきているということが分かります。

正確な森の情報を
 私たちが森を案内するときに、森に行った、涼しくて良かった、あるいは爽やかだった、ということは、なんとなく気分的にはわかります。けれども、山に行って大きい木を見ますときに、誰かがこの木の直径はいくらだろうかというと、だれかが1m位ではないかという。すると、その1mが1mとなってしまい、最初に言った人を基準にして1mが基準になったりしますけれども、私が森を案内した経験では、だいたい皆さんが1mと言うのは60pから80pぐらいのを1mだということになる。ちょっと大きくなって1mくらいになると、極端な場合1m50pぐらいあるんじゃないかと言うような事になります。けれども、そう言う事はできるだけ本当の事を知ってもらいたいと思うのです。ですから、40年生くらいだったらこれぐらいだと、そうしたら、どうも1mになったら110年になりおかしいと。ところが、実際測って見ると60cmだったり80cmだったりと、そう言う事から私達が森を案内する時は、必ずメジャーを持って行く。そうしていただくようにしております。

 それから、ここの白岩山には、五ケ瀬川の源流がありまして、あそこから水が、どんどん出てきております。わあ、冷たいと、冷たかった、うん、冷たかった、それもいいと思いますけれども、実際何度あるか、先程4億年の岩清水だと言う話でございましたけれども、私は森を案内する時はいつも温度計を持って行きまして、水の温度を計り、正確に実感していただくことにしております。あそこの妙見の水のみ場が作ってあるところでは、たぶん夏も冬も13度前後だと思います。それから、下ってきて手で触る所がでてくると、あそこに、シャーシャーシャーと落ちる所がありますけれども、冬でしたら、7〜8度までおちていると思いますし、夏でしたら、17度。森の中ばっかりを通って流れ出てきますから、そんなに温度はあがらないと思いますから、15〜16度までかとも思います。そういうことは、私達インストラクターとしてはしっかりした数字をあてて、水が出る所はそれぐらいだけれども、夏とそれから冬ではこう違うということをしております。

 だいたい何度ぐらいか当てて下さいというと当たらないことが多いのです。自分のこの肌で今日は寒いと感じると、水が温かく感じますし、気温が温かいと水は冷たく感じますから、非常に人間の感覚と言うのは、いいかげんなんです。森に行ったら、温かい所と寒い所があります。そういうところで、つつじが早く咲いたり遅く咲いたりします。それからこれは、話題として皆さんにお話しますが、チューリップが咲いた時、チューリップは、丸く咲きますが、その中の温度を測ったことがあるでしょうか。外の外気温とそのラッパ状の中とでは、だいたい10度違います。

 先日4月29日に、監物台樹木園と言う所で、市民の方と一緒に樹木園を回ったところで、温度の当てっこをしました。外気温は30度あります。そこで日の当たっている場所で40度上がるか上がらないかということで測ったら40度を超えました。そうして、今度はツツジの中では5度位はすぐ下がります。そういうことで植物とか日当たりとかで温度に大きな違いがあります。このように、森に案内した時は、計測しながら実感として森を知って頂く良いと思います。是非皆さんも、山に行って、樹木が大きいといったら、まずどれぐらいかということでクイズを出しながら、測って頂ければいいと思います。

 私達は、先日、屋久島の縄文杉に行ってきました。今、皆さんがあそこまで行かれないで、縄文杉を思っていられる方は、素晴らしく大きい木だと思っていらっしゃると思います。ところが、あそこに登って行きますとその登って行く途中に、大杉とか、夫婦杉とか沖縄杉とか名前が付いているのがいっぱいあるんです。それで、縄文杉まで行きますと途中で大きいのを見てきたから、自分のイメージで考えていた縄文杉でなくなっちゃうわけなんです。いっぱいあるからですね。だから、もし夢を描いて1回は行ってみたいと思う方は、行かれるのはけっこうだけれども、たぶん行かないで夢で描いていらっしゃる方が、感激の方は大きいかも知れません。そこはそれぞれの考え方ですが、そういう森の実感の仕方というのがあります。

 いろいろお話してきましたけれども森の見方、学び方と言うことで、なるほどそんな見方があるかと、年の50過ぎて山に行ってそんな事ばっかりしているかと、内心思っていらっしゃる方もおられるかおられないか、まあそんなことをやっております。(笑い)
植物は、いろいろな情報を与えてくれます。それで植物を覚えると言うのは、同じ情報ではないですから、そうした違った情報を覚える事によって、植物というのは簡単に覚えられる。そこで、最後に植物をどんなにして覚えればいいんだろうか、今から関心を持ってしたいという人のために植物の数の話をします。


日本の植物の数は
 皆さんは、今日それぞれの家庭から自動車なり、歩いて、あるいは、学校から来られたと思います。その途中の道端にある草、竹それから田んぼの中にある草、それら全部に名前が付いております。名前が付いていないのがもしあったら、これは付いてないといってその人の名前を付けていいんです。自由にですね。そう言う事で全部植物に名前が付いています。

 それでは、ちよっとお聞きしますけれども、日本に自生している植物の内、帰化植物を除いて、目で見える植物は全部で何種類あるとあると思いますか。シダも、草も、木もそれの植物を3段階で言いますので、どれかに手を上げてください。5千、2万、5万と行きたいと思います。植物は、沖縄から北海道までです。今、ここ10年間熊本県下の植物についての新しい発見はなされていないようです。名前があって熊本で初めて発見されたその山地は、いくらでもありますが、10年以来ないんです。先日、新種が何年ぶりかに発見されたのが載っておりましたけれども、植物については10年この方新種発見はないです。

 けれども、シダ植物は今年10種類以上新種が出てきております。あれは荒廃が激しくて消えていくのもありますから、レッドデーターブックなんかを見ますと、シダ植物は日本に3科しかないとか、5科しかないとか、言う表現がしてあります。それが自生の内に入るかどうかというと、それぞれの考えがありますから私はいいません。そこで、今、日本にそういう名前が載っているのが5千なのか、3万なのか5万なのか手を上げて頂きたい。自分の思っているところで手を上げてください。

 有り難うございます。約2割の方は、わけのわからないという人がいて、手を上げられなかったようです。実は、これは皆さん良く聞いていらっしゃると思いますが、レッドデーターブック、赤、で作った日本の希少野性植物は、いわゆる1800種が固有種になっているというような新聞記事を読まれたと思います。レッドデターブックでも5300種類しかございません。

 今、植物図鑑で一番使われているのは保育社の日本原色植物図鑑ですが、これによると、今、全部で木本類が2冊。それから、草本類が3冊、シダ植物が1冊と、6冊でておりますけれども、これを集計しますと約5000種類です。それから、牧野図鑑ですが、私が持っているのは45年頃のものですけれども、それで3895種でございます。そいうことを考えますと、だいたい5000種前後と思っております。

 それでは、宮崎県内ではいくら見れるか。日本の北から南までが5000種ぐらいだとすると、宮崎県にいくらあるのだろうか。残念ながら宮崎県の植物とか生物で調べましたけれども、数は載っておりません。それで熊本県を見ましたら、熊本県はご存じのように、希少野性植物を守ろうということで委員会ができ、そこでそれを幾つ選んだかっていうのは、2140種の中から選んだと書いておりますので、たぶん熊本が2000種類位じゃないかと思います。それから、菊地渓谷というところがありますが、ここが970種類位。あるいは金峰山、立田山、合わせて調べた調査が1300種位です。そういうところからみますと、この霧立越を中心に白岩山から国見岳周辺では540種を数えております。


霧立越は植物の宝庫
 普通、海岸端からこういう高い山に来ますと、低い所は種類が多くて上の方に行くとだんだん少なくなるんです。けれども、こちらは、昨年のシンポジウムでいろいろ、守るべきかあるいは、知らせるべきか、というようなことがだいぶ討論されたようですが、なにはともあれ、いくら位あるかといいますと、540種ありまして、その内僅か1.5ヘクタールの白岩山周辺に444種あるという報告がありました。ということで、非常にこちらの山が、霧立越がどんなに大事な、大切な所かということが数字の上からもわかるわけです。そういうことでいいますと、だいたい400というのは、絶対手の届く植物の数でございます。今いろいろお話しましたけれども、こういうような情報を得ながら、ひとつ植物を覚えてみようという人は、挑戦していただきたいと思います。

 与えられた時間がきております。私に与えられたテーマに添ったお話になったかわかりませんが、皆さんが森を案内する時に、こういうことを話題にしていただいたら嬉しく思います。最後に、学生さんが来ていらしゃるんで付け加えますが、互生と対生というのがありますね。葉っぱが交互に付いているのが互生です。同じ所から出ているのが対生です。互生と対生これは覚えなくてはいけない。昔、たぶん試験にも出て、理科の時に書いたと思います。

 ところが、世の中というのは、人間の社会と一緒で時の流れでそういうわけにはいかないわけなんです。それで、今日これを見ていただくと2枚ずつ横になる。2枚がこちらに出る。2枚がこちらに出る。これがコクサギといいましてどんな所でもあります。イスノキとか、あるいはネコノチチとかいうのがありますから、植物の観察をしながら植物を覚えようと思われると、おもしろいものがあると思います。おもしろかったと思った人はひとつ是非、植物を調べていただきたいと思います。

まことにお粗末でとりとめのない話をしましたけれども、私の話はこれで終わらせていただきます。どうもご静聴ありがとうございました。(拍手)

続く