セッション2
講演「滝  学」
講師 小林伸行先生(滝研究家・医学博士)


 まず、何故私が滝の勉強を始めたのか、その理由から話させていただきます。私はいつも仕事でコンピュータを使っていますが、2年程前にコンピュータを買い換え、何か新しいことをやりたい、ホームページでも作ろうかなと思いました。私の本業のホームページを作るのもいやだし、何か題材はないかなと探していましたら私の父親が宮崎の滝の写真をいっぱい撮っているのに気づきました。では、滝のホームページでも作ろうというようなことで始めた次第です。
 ホームページを作っていくうちに滝に興味を持つようになり、私は、熊本にいますので、父に倣って熊本の滝を撮るようになりました。結構色んな、似たような滝があるという事に気付きました。
 また、ホームページに何か特徴を持たせたいと考えました。全国の滝のホームページを見てみますと、大体写真をやる方がホームページを作ってらっしゃいます。もうとても滝の写真で勝負するというのは難しいと考え、滝の地質的な観点から成因を考えるホームページを作ってやろうと考えた次第です。
 去年の春先に父親が入院しまして、見舞いに行ったところ、幻の滝が発見されたという記事が宮日新聞に載っていると教えてくれました。父親と「一緒にいくことはもう叶わんね」と話をしたの覚えています。
 父親は、今年の二月に亡くなりましたが、五月に幻の滝発見の立て役者である秋本さんからメールを頂き、本日お話しする機会を頂きました。父親が生きていれば是非来たかっただろうなと考えながらやってきました。
 私のホームページは「宮崎の滝」といいます。今日持ってきた写真は、このホームページに出したものの四分の一ぐらいです。それから、「滝を観る」というホームページがあります。これは、千葉県の滝を例に地形学の専門の先生が滝について詳しく述べられています。ここに書いてあることを参考に今日のお話をさせていただきます。
 最初に滝の一般論について話をさせていただき、次に火山に関係した滝、火山と関係ないすなわち堆積岩地形にかかる滝についてお話しします。

1.滝の一般論
 まず、滝の定義についてです。滝というのは、河川に出来た河床の段のことをいいます。何メートル以上なら滝という区別はないようです。ただし年中水量がみられるということが原則です。時として渓流と滝との区別は困難です。例えば昨日椎葉に行きましたけれども、椎葉の川は、何処をとっても滝と言ってもいいぐらいの渓流でした。慣習的に滝といわれている所を滝と言っているようです。


 じゃ滝の数は、日本でどの位あるでしょうか。環境省が落差五メートル以上の滝は2488としています。皆に聞いてみるとこんなものではない、この数倍とか、多い人は10倍とかいいます。どこまで根拠があるか解りませんが、この数よりはるかに多いだろうと皆思っているみたいです。
 宮崎県にある滝の数はどれ位かということですが、私のホームページでは138という数字を出しています。25000分の1の地形図に記載してある滝が110あります。調べてみると記号はあっても砂防ダムであったり、もう無くなっていたり、というな滝もあります。父親が実在を確認したものと未調査のものを含めて105。それから個人的情報により確認した滝が33ということで138としています。それから日本の滝データベースというホームページがあります。これはいろんな書物からのの集計で142としています。重複があったり、実在は確かめられなかったりしています。正確な数字はわかりませんが、誰がみてもこんになもんじゃないと思っています。
 昨日椎葉に行っただけで、あーこれは、滝だ、滝だって、知らない滝が二,三個あったような気がしますんで、とてもこんなもんじゃないと、ま、倍位はあるんだろうなと思います。

   滝の種類ですけれども、基本形は三つに分けています。直瀑、段瀑、渓流瀑です。直瀑というのは、水が垂直に落ちていきます。水が滝崖を伝わって落ちるんではなくて、自由落下するというのが一応の定義でよろしいかと思います。これが一番滝らしい滝です。
 それから段瀑というのは、この様に一段、二段、三段と段となって落ちていきます。それから渓流瀑は、水が傾斜のある斜面に沿って流れる滝です。
 あと少し特殊な分類があります。分岐漠というのは、水が落ちる途中で枝分かれをする滝です。潜流漠は断崖の途中からの湧き水が落ちてくる滝です。線滝というのは縦長の滝。横滝は幅広の滝です。

2.柱状節理を有する阿蘇の滝
   では、さっそく実例を見て頂きますが、まず五ヶ瀬町ということで、三ケ所川にかかるうのこの滝を第一にもってきました。実は、非常に特徴のある滝です。滝の上流の渓流はとても細いのに、こんなに大きくて丸い滝壷をもっています。これが一番の特徴です。
 それから滝崖を見ますと縦に岩石が切れています。この岩石は溶結凝灰岩といい、阿蘇の火砕流堆積物が固まってできたものです。またこういう岩の割れ方を柱状節理と言います。この溶結凝灰岩の柱状節理が滝面全体にびっしり覆っているのがわかります。
 それから3番目の特徴は滝崖の下部、上流側に洞窟みたいに穴がえぐられていることです。実はこの辺の滝では結構有るんですけれども、全国的に見ると珍しい形です。これは滝の裏側に回って下流側が見通せるという意味で裏見の滝といいます。滝崖の上部は溶結凝灰岩の断崖ですが、下部の方は堆積岩からなっています。ここは阿蘇の火砕流噴火以前の地表で、これを基盤岩といいます。基盤岩の上に火砕流が堆積し固まって溶結凝灰岩となったという関係になります。この基盤岩の方が比較的硬いため、先に浸食され裏見の構造ができたと考えられます。
 それから、この滝の上流へ上がってみますと、岩床、要するに渓流ではなくて一枚岩の所を水が流れています。五ヶ瀬の皆さんにとっては別に珍しくない光景だと思うんですけども、全国的にはこれは珍しい。しかも、河床の所々に甌穴があります。三ケ所川には、そんなに発達していませんが、他の河川ではもっと顕著に見られる所があります。
 それから、もう一つ特徴を言いますと、けっこう山の中ではあるんですけれども、昨日見た幻の滝みたいに周りが断崖絶壁という訳ではなくて、割りと穏やかな地形をしている。これは、又次の滝でもっと綺麗に出てきます。
 それから、この写真を撮った展望台から下流側を見れば解りますけれども、川の両岸にこの柱状節理に覆われた断崖がずっと続いていくのがみえます。要するに、この滝を境に急に谷が深くなっている。しかも川の両側が切り立っているという特徴を持っております。はい、次お願いします。

 阿蘇の周辺にはこのような滝がゴロゴロあります。これは、熊本県矢部町の五老ヶ滝で、大きく丸い滝壷をもってます。滝の周囲に田園が広がっています。あたかも田園の真ん中に穴をボコッと掘って、その穴の中に水が落ちているというような格好をしています。
 右は、五郎が滝の正面像です。滝崖の上三分の二は溶結凝灰岩の柱状節理からなっています。現地の説明板によると、下三分の一は基底岩で、礫層とチャート層だというふうに書いてありました。うのこの滝と違いまして基盤岩はかなり硬い岩盤ですので裏見の構造にはなっていません。

  これは熊本県蘇陽町の竿渡の滝です。五ヶ瀬川にかかり、今話している場所からほんの数km下流にあります。うのこ滝がかかる三ヶ所川は五ヶ瀬川の支流ですから、うのこの滝とは兄弟滝と言ってもいい位置関係にあります。滝崖の上部は溶結凝灰岩の柱状節理、滝の上流もやっぱり一枚岩の岩床というふうになっています。滝崖の下部三分の二以上は基盤岩で、水平に走る地層をもっています。この滝も大きくて丸い滝壷を持ち、滝の上流に比べて非常に大きな川幅となっています。この滝の下流が蘇陽峡という渓谷になって行きます。

   これは聖滝。熊本県の矢部町、218号線沿いに滝の展望台がありますので降りられると直ぐわかると思います。これも一緒で、大きくて丸い滝壷があります。滝崖は溶結凝灰岩の柱状節理てす。この滝の特徴的なのはだいぶ浸食が進んでいることです。滝は二条になって落ちますが、右の流れの途中には段が出来て、二段の滝になっていますが、もう一条の流はそのまま直瀑として落ちていきます。

 大分県側にも同じ様な滝があります。これは、大分のナイヤガラといわれる原尻の滝です。これも滝崖は柱状節理で、写真ではわかりませんが、滝口には甌穴が広がっています。滝面は半円形の断崖で、丸くて大きい滝壷を持ってます。落差20mしかないですけれ、横滝であることが特徴です。もう一つ特徴的なのは、上流辺はまったく田んぼですよね。この滝の下流側も上流側もただの平野で、平地の中に突然滝が出現しています。この特徴はこの滝が一番典型的です。

 高千穂峡の有名な真名井の滝です。写真が悪くて見えにくいんですけれども、溶結凝灰岩の柱状節理で覆われた深くて狭い峡谷の中を五ヶ瀬川の本流が流れていきます。その途中から、支流が滝となって落ちています。こういう構造は、後から申しますけれども懸谷型の滝といいます。本流は水量が多く浸食が進み谷が深くなった所に、水量の少なく浸食が進んでいない支流が合流すると合流部が急傾斜となります。こういう地形を懸谷といい、滝が発達しやすくなります。

これまで見てきた滝の特徴をまとめますとひとつは、直瀑。溶結凝灰岩の柱状節理が発達する断崖にかかって、滝崖は、半円形と蒲鉾をたてたような形になっている。それから、川幅に比べて極端に広く円形の滝壷をもっている。しばしば滝の下部が上流部にえぐれて裏見の滝となっている。それから、滝の上流部は滑床でしばしば甌穴が発達する。滝の上流部は比較的平坦で、しばしば田園が広がるが、滝の下流部には両岸が切り立った柱状節理の断崖を有する深い渓谷が出現する。それから、懸谷型の滝を多く伴う。それから、巨大カルデラ外輪山周辺部に位置する。ということです。
 これらは、火砕流堆積物にかかる滝の特長です。こういうふうな特徴をもった一群の滝があります。

3.阿蘇の滝分布
それでは阿蘇の溶結凝灰岩にかかる滝がすべて今まで見てきたような形をしているかというとそうではありません。この写真は熊本県菊池市の菊池渓谷というところにかかる四十三万の滝です。落差は、10mもないぐらい小さな滝です。滝崖に柱状節理は見られず、渓流瀑で、今までみた滝とはまったく違った景観を呈しています。菊池渓谷に行かれた方も多いかと思いますが、この渓谷には小さな滝が7個ぐらいかな、連続しています。中には小さな背の低い柱状節理を持った滝もありますが、多くはこういった渓流瀑を主体にしています。
 ところが、滝自体は柱状節理ではありませんけれども、滝の周囲には、たくさん柱状節理が見られております。
 今まで申しあげた阿蘇の滝の分布をみてみます。黄色い線で阿蘇の外輪山を示しています。だいたい直径が20キロぐらいあります。
 赤丸で示したのが柱状節理が発達した滝、柱状節理が見られない滝を緑で示しております。そうすると、この赤で示した滝は外輪山から離れたところに見られます。緑で示した滝は、また外輪山のわりと中央部にみられています。なぜこうなるかということを少し考えていきたいと思います。
 阿蘇の外輪山は中央部がもっとも標高が高く、周辺に行くに従ってなだらかに低くなっています。外輪山の北側と東側ではこの関係が典型的にみられますが、西側と南側では浸食が激しく不明瞭となっています。ですから、外輪山の北側、南小国町から小国町にかけて上流から下流に連なる滝をお見せし、その変化を見ていきたいと思います。

 これは、小田滝といいます。熊本県南小国町、小田川にかかります。もう柱状節理もなくて、溶結凝灰岩ですがのっぺりとした滝です。節理構造もあまりよく解りません。最上流部の小さな滝です。
 この滝の下流に露天風呂があってですね、覗きをしているみたいな気分で30秒位で帰ってきました。

 同じ小田川の1キロ位下流にある七滝です。ここは小さな渓流瀑が、連続しています。、七つという触れ込みですけれども、遊歩道から解るのはこの二つですね。
 左に示した上流側の滝は溶結凝灰岩の不規則節理、板状節理で、板のように水平に岩が切れてます。ここから下流はどんどん谷が深くなり、両岸は切立った断崖になり、板状節理、柱状節理、色んな節理が入ってきます。谷がどんどん深くなるところに右の滝があります。滝自体の節理は不明瞭です。

 これは夫婦滝です。七滝から2〜3キロ下流で、ちょっと開けたところにあります。上の写真が小田川にかかる滝、下が田の原川にかかる滝です。どっちが男滝で、どっちが女滝かわかりませんが、上の方が大きそうなので男滝かなと想像しています。柱状節理は、ぜんぜん見られませんが、上の滝では方形の、四角のような、わりと規則的に節理がはいってます。下の滝では節理構造は見られません。それぞれの滝の滝壷の下流で、二つの川は合流しています。

 田の原川は小国町の宮原で筑後川の支流、杖立川と合流します。宮原の町外れ下流一キロ位の所に「はん(土の右上に点)田滝」があります。
 落差はちょっとわかりませんが、30メートルぐらいはあるでしょう。これまでの滝に比べて非常に高い滝です。
 滝崖に部分的に柱状節理はみられますが、大部分は不規則節理のようです。滝崖は半円形で、大きく丸い滝壺を持っています。ここで初めて大型の滝が出てきます。
 宮原は田園地帯です。田んぼが広がっている中に突然滝が出てくるという典型的な地形をしております。この川から下流は両岸に柱状節理が発達する深い渓谷になっていきます。

 それから又2キロくらい下りまして、杖立川は樅木川と合流します。合流点から樅木川を500メートルくらい遡ったところに、下城(シモジョウ)滝があります。これはもう柱状節理が非常に密にある滝です。
 先程見たうのこ滝と同じように、丸くて大きな滝壷を持っています。滝崖も半円形です。滝崖の下部には裏見の構造があります。滝崖の上三分の二が溶結結凝灰岩、その下が基盤岩となっています。落差は49mです。
 このように、上流部から下流部にしたがって高い滝になっています。

 私の本業では統計学が必要で、よく使ってます。この統計学をちょっと滝の分類に応用してやってみました。滝の分類を論じてきたわけですが、或いは主観が入ったかもしれません。主観を取り除くために数学的に検討してみようとしたものです。
 これは、クラスター分析という手法で、滝のいくつかの特徴を全部合わせて、どの滝と、どの滝が数学的に似ているのかということを計算したものです。左側に滝の名前を並べています。右に延ばした線で滝同士を繋いでいますが、距離が短い程、数学的に似てるということを示します。例えば五老ヶ滝と下城滝とは非常に似ているということになります。
 逆に離れたところで結ばれているものは似ていないということを示しますので、この性質を利用して全体をグループ分けすることができます。全体を大きく二つにグループ分けしようとすると、右の方ので線が二本になったところに着目し、それぞれの線にまとめられた群に分けるのが数学的に妥当な分類ということになります。
 上のグループは、今までお見せしてきた滝ですね。五老ヶ滝、真名井の滝、下城滝、うのこ滝、聖滝、原尻の滝、竿渡の滝などからなり、溶結凝灰岩のが柱状節理が発達し、落差が高く、外輪山から離れたところにあり、大きく丸い滝壺を持つといった特徴を持っています。下のグループは小さな滝ということになります。
 詳細は私のホームページに載せています。

4.阿蘇の滝の形成仮説
  次に何故こういう結果になったかを考えていきましょう。火山噴火といえば溶岩が流れ出す噴火を思い出しますが、溶結凝灰岩を作った阿蘇の噴火は火砕流噴火です。火砕流とは溶岩などの火山噴出物と山体とかが、一体となってガス状になって流れる現象だということです。
 なかなか火砕流というのがイメージできなかったのですが、雲仙の火砕流が生じ、テレビなどで溶岩が崩れたりするのをきっかけに火砕流を生じる映像を見て、だんだんイメージできるようになりました。
 溶岩はともかく、山体も一体になってガスになって流れるというのは、なかなか理解しにくかったんです。あの山自体がガスになるなんて・・・と思ってました。それが例の、去年起こった国際貿易ビルの倒壊の映像を見て、爆発を起こしたわけでもないのに、ビルが、がらがらがらっと崩れる。そうすると、こんなに大きな黒煙が出る。しかも、この黒煙が治まると、粉があたりいちめんに厚く積っている。硬い個体のはずのビルが倒壊しただけで、ガス状になり辺り一面に粉となって積もったわけです。そういうのをテレビで見て、あっ、こんなイメージなんだなと。これに、マグマの高熱と熱エネルギーがきてバーンと爆発し、山体も一緒にガス状となり流れていくのが火砕流だと、私は一人で合点しました。
 そういう超大型の火砕流、雲仙火砕流なんかと比較にならないような、雲仙火砕流で起こったこの全体の100倍もあるような火砕流が阿蘇に起きたんだということです。
阿蘇の巨大火砕流というのは、実は27万年前から前後四回起っているんです。Aso1、2、3、4と呼ばれ、Aso4というのが一番新しく、大きな火砕流です。約9万年前に起こったとされています。
 火砕流の堆積は広範囲に見られ、高千穂、竹田、熊本一体を埋め尽くし、五ヶ瀬川沿い、大野川沿いに広がっています。もちろん現在滝が多くみられる矢部地方、小国、それから菊池辺りも埋め尽くされています。
 遠い所では、人吉、本渡、島原、山口までいってるみたいですね。こういうふうに広範囲に火砕流堆積物が広がり、滝の基になっています。

  火砕流が何十m、数百mの厚さに降り積り、谷を埋めて平坦な地形が出現します。その積った火砕流堆積物は、噴火ですので非常に高温になっています。表面と深部で基底岩に接するところは、わりと早期に冷やされます。ところがその真ん中というのは、長く高温が残り、高い圧力がかかります。溶結といいますけれども溶けた岩石が均一な構造になってきます。それが長い期間かかってゆっくり冷やされ、少しずつ収縮します。収縮する時に岩の間に切れ目が入りますが、ゆっくりゆっくり収縮していった所では幾何学的にきれいな割れ目となり、柱状節理となります。ですから、深い谷程、深く積った所ほど、ゆっくり冷えますので、きれいな柱状節理が発達します。
 一度火砕流堆積物が積もると、平坦面から浸食が始まっていきます。上流部では水量が少ないので浅い谷のまま残りますが、下流部になると支流を集めてどんどん深い谷が出来ていきます。その内にもう一回巨大火砕流噴火が起こり、できた谷を全部埋めてしまいます。
 ですから、下流側は元々有った深い谷をうめて厚く堆積をする。その結果柱状節理がきれいに発達するけれども上流部では元々の谷が浅くて火砕流堆積物の堆積も薄かった。その結果、柱状節理があんまり発達しない滝が出来てきたんだろうと考えられます。

  阿蘇外輪山、巨大カルデラの滝のまとめです。1.上流部に小型の滝が連続し渓流瀑又は段瀑である。滝自体には、柱状節理はみられないけれども、滝の周囲に存在する事がままある。上流では、火砕流堆積物の層が薄く、複数の火砕流堆積物が堆積した結果と考えられます。
 2.下流部は、柱状節理に覆われた断崖を持ち、直瀑で大きな滝壷を持ち、落差が大きな滝が存在します。下流部では、火砕流堆積物が厚く堆積した結果と考えられます。それから、形成された年代が新しく幼年期地形となる。要するに、平坦な地形の中に突如滝が出現し深い渓流が続くというパターンです。滝は川の本流にできるが、懸谷型の滝も多数存在する。
 また、1と2は統計学的に区別できます。


5.南九州の巨大カルデラと滝
 阿蘇のカルデラは一番有名で大規模で、良く研究されたカルデラですが、実は南九州には阿蘇カルデラにも匹敵するような巨大なカルデラが連続しています。
 北から加久藤カルデラ、これは中央火口丘は霧島火山群、次に姶良カルデラ、これは錦江湾の北半分で中央火口丘は桜島、それから阿多カルデラ、これは錦江湾の入口です。中央火口丘は開聞岳です。最後は鬼界カルデラですが、海中にあります。中央火口丘が硫黄島です。これらの巨大カルデラからの火砕流噴火が繰り返し起こり、南九州一帯は何種類もの火砕流堆積物が積もっています。
 加久藤カルデラは11万年前に、姶良カルデラからは2万2千年前に大きな火砕流噴火を起こしました。後者は入戸火砕流と呼ばれ、南九州にあるシラスという土壌を造りました。

 実は、南九州に阿蘇の滝と同じような滝が複数存在するという実例を紹介しましょう。これは、鹿児島県肝属郡大根占町にある神の川大滝。最初にここに行ったとき阿蘇の滝にあまりに似ているので、ビックリした覚えがあります。丸く大きな滝壺、半円形で柱状節理に覆われた滝崖があります。
 滝口には甌穴がみられます。甌穴が発達した滝は柱状節理の浸食され解りにくくなっています。この滝から下流は柱状節理に覆われた深い谷が続きます。これは阿多火砕流堆積物により出来た滝と思われます。

 宮崎の須木村、ままこ滝です。元々、落差は40mあったようですが、下流に出来た綾南ダムのダム湖のために、今は落差20mの滝になっています。柱状節理の断崖がこの湖面一帯を覆っています。やっぱりここも浸食進んで、この滝の部分では柱状節理あんまり綺麗に見えませんけれ、滝崖が半円形であることはお分かりでしょう。やはり、阿蘇の滝にそっくりですね。
 これは、加久藤カルデラからの火砕流と言われています。

 これは有名な関之尾滝です。現地の看板に加久藤カルデラ火砕流でできたと書いてあったり、姶良カルデラ火砕流でできたと書いてあったり、どっちだというような感じです。この上流はご存知のように甌穴群が広がっています。
 こちらも、柱状節理の断崖なんですけども浸食進んでもう本当かよというような感じになっています。阿蘇の滝も浸食が進むとこんな形になっていくのでしょうか。

 これは日南市にある小布瀬の滝です。こんな離れた所まであるのかと思いました。滝崖の上部に柱状節理の断崖があるのが分かります。滝崖の下部の様子はこの写真ではよく分かりません。
 これは姶良カルデラ火砕流だろうと思っています。
 これは鹿児島県鹿屋市にある谷田滝です。これをお見せしたかったのは、この巨大な甌穴です。巨大な甌穴が連なっているのがお分かりでしょうか。滝の付近を撮ったので浸食が進んだ部分の写真になってしまいました。周囲には、深さが2mも3mもあるような深い甌穴など、もっと見事な甌穴があります。関之尾の甌穴とは比べ物にならないほど立派な甌穴が広がっています。
 滝本体は中央のおじさんが立っているところの下にありますが、滝自体は大した事はありません。それだけ浸食が進んでいるということだと思います。
 溶結凝灰岩には甌穴が発達し易いみたいです。阿蘇では、甌穴は小さいものばかりでした。それに比べて南九州には非常に甌穴が発達した所が結構あります。

6.尾鈴山酸性岩にかかる滝
  今まで巨大カルデラの滝を見てきました。この滝は都農町にある観音滝です。滝崖は柱状節理で覆われています。これも溶結凝灰岩ですが、尾鈴酸性岩とまとめて呼ばれています。丸くて広い滝壷があり、今まで見た阿蘇の滝と同じような形をしております。
 ところがこれは、後で説明しますが、今までみてきた巨大カルデラに比べて非常に時代の古いものみたいです。

東郷町にある瀬戸の滝です。これも柱状節理ですが、浸食はかなり進んでいるようです。山奥みたいで、かなり父親が探したみたいです。
 これは、有名な矢研ケ滝ですね。あの尾鈴山中の名貫川の上流に、尾鈴瀑布群といって30いくつかの滝がある所があります。その中で一番有名なのが矢研ヶ滝です。ただそれは、溶結凝灰岩ではありますが、先程見たのとは違いまして、柱状節理は見られません。

 これは、名貫川の矢研が谷の反対側、名貫川のけやき谷の一番奥にある白滝です。直瀑のように見えますが、実はこの写真は滝の上半分で、下半分はここから階段状の段差を段々と降りていくという構造の滝です。
 この滝はやや幾何学的な節理を持っているようですが、明瞭な節理構造とは言えるものではないようです。

 尾鈴酸性岩にかかる滝のまとめです。日向市から尾鈴にかけて、尾鈴酸性岩と呼ばれる溶結凝灰岩が見られます。その岩質は変化に富んで一様ではありません。この岩石の形成時期は、1500万年前とされ、阿蘇より極端に古い。又明瞭な火山体をもたない。明瞭なカルデラ地形はなく、起源は不明です。
 この地域の周辺部には、柱状節理が発達して柱状節理にかかる滝があり、阿蘇の滝に似ています。一方中心部、名貫川の上流部には小さな滝が連続する尾鈴瀑布群があります。本日、写真で示しましたのは、その代表的な大きな滝ですので、大きいイメージがありますけれども実は小さな滝、落差が10mあるかないか位の小さな滝がいっぱい連続する瀑布群であります。特徴としては、滝の姿が一様ではない。節理も明瞭な構造を示さないといった特徴を持っています。

7.溶岩にかかる滝
 ここまでが溶結凝灰岩の滝でした。これから先が溶岩にかかる滝になります。この滝は、阿蘇のカルデラの北半分、阿蘇谷の水を集めて流れる黒川、その黒川がまさにカルデラの外に出ようとする所にかかる数鹿流ヶ滝です。 これは日本の滝100選というのに入っています。この滝も丸くて、大きな滝壷を持っています。あたかも、阿蘇の滝みたいですけれども節理構造は不規則。非常に不規則な節理があってそこは区別できると思います。
 これは鹿目の滝、熊本県人吉市にあります。熊本県と鹿児島県の県境、一部宮崎にもかかっていますけれども、ここに肥薩火山群といって何処から噴火したのかよく解らない安山岩質の溶岩の地形があります。ここにもよく滝がかかっています。有名な日本の滝100選というのがあるんですけれども、それにも選ばれてる鹿目の滝ですね、一面に安山岩の柱状節理が広がり、一番立派です。形状的には阿蘇の滝に似ています。

 先程の肥薩火山群の反対側、水俣市に湯出七滝といわれる滝があります。その湯出七滝の内の一番大きな滝がこの水俣大滝です。上下二つの構造でできており、上の方はサイコロ状の節理をもった岩石が積み上げられたような断崖をで、直瀑となっています。下の方はなめらかな岩石で水流が大きく広がっています。綺麗な滝だと思います。

 この滝は水俣大滝の上流、湯出七滝の最上流にある箱滝です。きれいな切石のような節理が入っているわけです。そこに水が流れていくわけですが、これは人の手が入っているんじゃないかと疑ってしまうような滝です。自然に出来たのならもっと浸食が進んでいいんじゃないかなと思うんですけれども、こういうふうにきれいな節理です。対岸も同じように切り石を並べた断崖で、落ちた水は左の方に曲がって流れていきます。滝自体は10m位ですが、非常に特徴的な滝です。


8.堆積岩地形にかかる滝の分類
 今までが火山岩、火山に関係した滝でした。これからが堆積岩地形、ようするに火山に関係ない地形に発達する滝ということになります。
 一般的な滝の出来方というのは実は二つあります。一つは、地質の違いに関わらず滝が形成される場合と、硬い岩石があってそこが浸食に抵抗して滝が出来る場合があるということであります。
 まず前者について説明します。川の上流では浸食がさかんで、下流では堆積が起こりますが、非常に長い年月が経つと浸食も堆積も起こらない平衡状態になります。それが何らかの理由で隆起、または海面が低下すると、河川は再び浸食を始めます(これを浸食基準面の変動といいます)。しかし、浸食は一様に始まるのでなく、ある所で急な傾斜を生じると、ここで川の流れが急になり、ここが一番浸食力が強くなります。るところが生じます。浸食がどんどん進んで、急傾斜は維持、成長していきます。これを遷急点(せんきゅうてん)といいますが、ここに滝がかかりやすくなります。
 そして浸食が進むに従って、この滝は後退していきます。これが滝が出来る一般的メカニズムです。大事なことは実は地質が違わなくても滝は、自然にできるという事です。
 それから遷急点の近くでは浸食が一様に起こる訳ではありません。大きな滝がある場合、その上流部や下流部に小さな滝が付属することがままあります。滝が後退する過程で大きな滝から小さな滝が引っ付いたり、離れたりしながらだんだん浸食されていきます。
 宮崎の滝で考える時に、侵食基準面の変動の源になるのは、一つは、造山活動に伴う河川の隆起があります。全般的に九州山脈が上がってくる訳ですからそれに従ってつぎつぎに浸食が進んでいくきます。その過程で滝が形成されますが、その有り様には三つのタイプが考えられます。本流型の滝、源流型の滝、懸谷型の滝です。
 本流型の滝は川の本流にかかる。大型で直瀑傾向のある滝ということになりますが、これはもう、速やかに浸食されるので硬い岩盤がある所以外は、ほとんど残される事はないと思います。
 源流型、河川の源流にある滝というのは、水流が少なくて永く存在する。しかも山奥にある。こういう特徴を持っています。それから渓流瀑となりやすい。昨日観てきた幻の滝は、まさにこの源流型の特徴であり、源流型の一番の典型といっていいのではと思います。
 それから懸谷型の滝。本流と支流の浸食力の差により、河川の合流部付近に構成されたものです。
懸谷型の滝の実例を示します。椎葉村松尾で耳川に合流する小河内谷についてみてみます。上の図は河川縦断図といって、合流部からの距離と標高をプロットしたものです。下の図は合流部の距離とその地点の平均傾斜をプロットしたものです。合流部付近、中流域、源流部と三ヶ所に傾斜のピークがみられ、合流部から1km程上流に滝があり、これが懸谷型の滝と考えられます。合流部から3kmの所にある滝は別の原因でできたものと思います。
 本日は示しませんが、耳川のもう少し上流で合流する六弥太谷などはまさに合流部に滝をかけています。六弥太谷は全長2km、小河内谷は全長6kmであり、小河内谷の方が浸食力が強いと考えられます。そのため、小河内谷では合流部より少し上流部に懸谷型の滝をかけているものと考えられます。

 地層の違いがなくても滝が形成されるという話をしましたが、地層の違いがあった場合、ようするに硬い地層と柔らかい地層があった場合には、浸食力の差によって滝が出来やすくなります。地層の分布の違いによって、滝の形も違ってくるものと予想されます。
 硬い地層が水平に分布している場合には、硬い地層が浸食する間に柔らかい地層は、先に浸食されてしまいます。ですから、段ができやすいという事で滝が形成されやすくなります。例として木城町の祇園滝があります。それから、硬い地層が垂直に分布する場合に、ここが浸食に抵抗しますので傾斜の急な滝が出来ます。例としては延岡市の行縢の滝があげられます。硬い地層が地面に対し、直角に交わると段瀑が出来やすくなります。適当な例はちょっと解りません。それから硬い地層が地面と平行に分布すると、ここに一枚岩の流れるような滝、いわゆる滑滝となります。例としては熊本県の祝口観音滝があります。


9.堆積岩地形にかかる滝、実例
 事例をお見せします。これは、木城町の中の又という所にある祇園滝です。砂岩、泥岩の互層にかかっています。植生があってこの互層構造は写真ではよく解りませんけれども、大きな滝です。
 (右)祇園滝の一キロ位上流にある滝です。もともと祇園滝というのはこちらをいっていたということで、この滝を旧名祇園滝と書いてある本がありましたのでこの名で出します。地層が水平に流れているのが解ると思います。これは砂岩と泥岩の互層で、こういう所に滝ができています。ここらあたりには、同じような構造をもつ滝が四個ばかり固まってあります。はい、次お願い致します。
 これは南那珂郡の北郷町にある五重の滝。猪八重渓谷というところに20ばかり滝がありますが、その中心といって良い滝です。日南層といわれる地層で、これも水平に地層がはしっていて、砂岩、泥岩の互層です。
 これは、延岡市の行縢の滝です。花崗班岩にかかる滝です。花崗班岩は延岡市の北で大崩山、行縢山、矢筈岳といったゴツゴツとした岩峰を作っているのでお馴染みだと思います。この岩盤は堆積岩地形の中に垂直に嵌入しています。そこに川が横切り、浸食に抵抗する結果、垂直の滝を作っています。
 これは熊本県の天草にある祝口観音の滝です。硬い地層が地表と平行に分布し、一枚板を流れるような滝が出来ています。ちょっと特殊な景観です。
 これは、東臼杵郡南郷村にある銀水の滝。しろみずと読みます。私の父親が言うには、ここは神門層という地質で、全体的にもろい地層で崩落しやすいのだが、硬い岩石があると滝がかかりやすくなると言っていました。具体的にはどういう岩石か私なりに調べたのですが、ちょっと解りませんでした。科学的に正しい説明なのか自信がありませんが、父親がそういってましたんで一応そういうことにしておきます。ただし、南郷村から一山越えた椎葉村大河内にかけての神門層に滝が多いのは事実のようです。
 椎葉村の大河内にある御神の滝です。近くには同じような滝がいくつかあります。椎葉村の滝というのは、先程言いましたように懸谷にかかる滝、もしくは源流にかかる滝ばかりで、本流に掛る滝というのはあんまりないようです。しかし、大河内ではこういうふうに河川の本流に掛る滝があります。椎葉村の北と南では地質が違い、南側では多分硬い岩石が浸食に抵抗するので川の本流に滝がかかっているのだろうと想像しています。先程述べたような事情で、この岩石がどういうような位置付けなのかはちょっと解りません。
 次は、白水滝。花崗岩の一種、花崗閃緑(せんりょく)岩にかかる滝です。花崗岩に掛る滝はこういうふうに滑らかな曲線になることが多いようです。この滝も水が岩肌を滑るように流れていきます。
 これは、熊本県の水上村にあります。雄滝と雌滝がありましてこれは雄滝です。雌滝の方が大きいようです。この滝の長さは100m〜200m位。観光用の吊り橋があります。
 次(右)は、栴檀轟(せんだんとどろき)の滝です。熊本県泉村五家荘にあります。チャートにかかる滝ですね。チャートというのは非常に硬い岩石で浸食に抵抗し、直瀑で、日本の滝100選に選ばれた綺麗ですね。
 次は、北川町の八戸観音滝です。紅渓石といって硯の原料にする石みたいで、地学的には閃緑凝灰岩だそうです。大昔に固まった凝灰岩だそうですけれども、ちょっと珍しい色艶を持っていたので持ってきました。

 宮崎の堆積岩にかかる滝がどういう成因を持っているかは十分に調べているわけではありませんが、これまで述べた以外の多くの滝は懸谷型の滝か、砂岩が浸食に抵抗した結果できた滝だと予想しています。砂岩にかかる滝はたくさんありますが、ここはやはり五ケ瀬町に敬意を表して鞍岡荒谷の白滝の写真を持ってきました。

 堆積岩地形にかかる滝のまとめです。
1.造山活動に伴う河川の侵食の過程で滝は生じます。現在見られる滝は、源流近くと懸谷に多く、源流型の滝は渓流瀑で段を伴うことが多い。幻の滝もこういう滝ですね。懸谷型の滝は直瀑又は傾斜が急な渓流瀑となります。
 2.固い岩盤がある所、硬軟の地層が分布するところに滝が掛る。砂岩、泥岩の互層、花崗斑岩、神門層の変成を受けた岩盤、などがその例としてあげられるが、砂岩にかかる滝も多い。
 実際の滝の成因を考える場合、1と2の区別は困難な事が多く、源流、又は懸谷の岩盤が固い所に滝が掛るというふうに一般的ですが、2に起因する本流型の滝も存在します。

10.宮崎の滝分布
 最後ですけれども、これは宮崎県の滝の分布図です。一応成因別に色分けしていますが、まだまだ調査不十分で不完全なものです。
 赤い点が溶結凝灰岩に掛る滝です。県北と県南に分布しています。それから、ピンクが尾鈴酸性火成岩です。それから緑が花崗斑岩。神門層は黄色で示しています。砂岩、泥岩互層のところは北郷町と木城町にみられます。後の滝はよく分からなかったんですけども、大体は、砂岩に掛る滝だろうと思っています。
 特殊な岩石に掛る滝も少々あります。

滝の分布を概観すると、やはり県北が山岳地帯であり滝も多いようです。この地域を流れる河川は五ヶ瀬川、耳川、一ツ瀬川が大きなものです。河川流域別に見ると五ヶ瀬川流域では滝の種類が豊富といえます。それから、耳川流域にも滝は結構あります。一方、一つ瀬川流域はあまり滝は多くありません。一ツ瀬川流域の大部分が四万十帯という新しく単調な地質であることが関係していると思います。

 どうも、時間を超過してすいませんでした。ご静聴有り難うございました。以上です。(拍手)